女性専用車両を考える

僕は普段滅多に電車に乗らないのだけれど、先日出張先で電車に乗る時にうっかり女性専用車両に乗りそうになってしまった。郷に入っては郷に従え、である。知らぬこととはいえ、その地の禁を犯してはならない。

一部には、反女性専用車両論者のような方もいると聞く。いい機会なので、女性専用車両の必要性についてちょっと考えてみたいと思う。

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wikipediaより



 

日本における女性専用車両の小史

Wikipediaによると、日本における女性専用車両は1912年にまでさかのぼるという。一説には、女学生が痴漢の被害に遭うと聞きつけた乃木希典学習院院長が上野駅の駅長に進言したのだともいう。以来、散発的に各地の路線で採用されることはあったものの全国的な潮流とはなっていなかったようだが、1988年の御堂筋線における恐るべき性犯罪の発生を契機に各種団体からの鉄道会社への働きかけが強まっていった。その後2000年代になると電車内における迷惑行為や痴漢行為が社会問題として大きく取り上げられはじめ、首都圏を中心に女性専用車両を採用する路線が拡大していった。*1

乃木希典の時代から100年以上の時が経った現在、日本は北は北海道から南は九州まで数多くの路線で女性専用車両が採用されている、世界随一の「女性専用車両大国」となっている。 

諸外国における女性専用車両

では日本以外の諸外国に目を移してみよう。イスラム諸国のように宗教上の理由により男女の乗る車両を分けている国々もあるが、日本のように痴漢対策として女性専用車両を導入している国は少数派である。イギリスでは日本に先立つ1874年に女性専用車両を導入しその後約100年にわたって運用してきたが、1977年に法的平等実現のため廃止している。その後何度か再導入が議論されてきたものの、「性犯罪の常態化につながる」「対策を諦めたことと同じ」「被害者であるのに特定車両に追い込むことはおかしい」として復活には至っていない。*2

現在女性専用車両を導入しているのは、イランやインドネシア、エジプト、マレーシアのようなイスラム諸国や、インドのような女性に対する性犯罪の多い国が多い。また、ブラジルやメキシコのように、導入はしたもののあまり乗客にルールが浸透していない国もあるようだ。 *3

Wikipedia女性専用車両の記事を見ると、日本についての記述が他を圧倒していて、日本の事情がいかに特殊かが浮き出てくる。*4

女性専用車両を導入する理由

女性専用車両を導入する理由について、前述の御堂筋線を擁するOsaka Metroは、性犯罪である痴漢行為から女性を守るためのものと明記している。*5 一方で、女性専用車両の設置が痴漢被害の低減につながっているという明確なデータを見つけることができなかった。このあたり、どのような研究がされているのかぜひ知りたいと思う。

女性専用車両の必要性を考えるための思考実験

僕は男性であり比較的背が高い(180cm)ため、性犯罪の被害に遭う危険性が低く、かつラッシュ時においても比較的苦しい思いをしなくても済んでいるという意味で「強者」である。そんな人間には実際に被害に遭われる方の立場に立って想像することが難しいので、ちょっとした空想で遊んでみよう。

2018年の調査によると、30代男性の平均身長・体重は172.1cmの71.0kg、女性は158.3cmの53.4kgなのだそうだ。*6

つまり、男性の平均身長は女性の約1.1倍、平均体重に至っては1.3倍以上もあることになる。これを僕が平均的な女性であるとして当てはめて計算してみよう。僕の身長・体重は180cmの80kgなので、これをそれぞれ1.1倍と1.33倍してみると198cmと106kgになる。

2m100kgと言えば、そう、かつて阪急で活躍した怪人ブーマーである。(個人の感想です)*7 また、NBA選手の平均身長・体重も約2m100kgであるという。*8 *9

首都圏における通勤定期券利用者の約65%は男性*10とのことなので、つまり僕こと非常口を平均的女性に当てはめて考えると、乗客の6割以上がブーマー、もしくはNBA選手で一杯の満員電車に毎朝乗車するということになる。あくまでこれは平均身長・体重なので、中にはアンドレ・ザ・ジャイアントの姿も見えるだろう。*11これが本物のブーマーやNBA選手や人間山脈であればいいが、多くはただの体格の良い疲れたサラリーマンである。あなたが男性であれば是非ご自身の身長体重をそれぞれ1.1倍と1.33倍して想像してほしい。しかもこの巨漢たちの多くはあなたに性的魅力を感じており、更にそのうちごくごく一部ではあるが、痴漢行為を働く犯罪者である。

むすびにかえて

色々脱線したような気がするが、個人的には女性専用車両というのは必要悪であると思っている。利用者のモラル向上や痴漢を働くような犯罪者に対する取り締まりの強化、そしてそのような犯罪を誘発するような通勤電車の混雑の解消を社会全体で考えていく、というのが本筋だと思う。女性専用車両というのは、そんな本筋の対策が思うようにいかない状態での一時しのぎ的な対策でしかないけれど、鉄道会社という一企業の取りうる対策としては精いっぱいのものではないだろうか。